「わたしたちの教科書」最終回

 最近なかなか連続ドラマの視聴を完遂できないことが多いですが、ライアーゲームに続いてなんとか全話見終わり感想など書ける余裕もあったり。例によってなげーので以下は省略で(w

 う〜ん、最後はどうも問題点が濁ってしまったのかな〜という終わり方だったように思います。最大のポイントは積木珠子が藍沢明日香の死に対して、真実を知りたい、母親としてせめてもの贖罪をしたい、明日香の無念を晴らすとともに自身も過ちから救われたい、時には手段も選ばずと言ってもいいような手を尽くし、自身の行為の先にあるものを知りたい、そう思って進んでいたのだろうと思います。
 どうせネタバレなのですが、私がこのドラマで何が描けたのだろうかと考えるに、学校にはいじめが大なり小なりある、子供たちと先生たる大人との間にはお互いが触れ合えない現状がある、学校の内部の問題を外に漏らさないよう隠蔽するという古い体質がある(後にこれは雨木副校長の息子との不和から浮かんでくる意思も影響していることがわかる)、裁判という大きな社会的影響が及んだとしてもいじめはなくなるものではない、しかし最後には問題をさらけ出し見つめることで少しでも道は開けるのではないか?非常に大きな出来事をいくつもいくつも乗り越えた末に得られたものは、ほんの一握りのものであり、でもとても濃厚で変えがたいものなんだ、という所を描こうとしたのではないかと思っています。
 逆にもっと描いて欲しかった部分もあります。1つは雨木副校長。息子音也も含めて考えるのもいいですが、彼女がいじめ問題に対して突き詰めていけなかったのは息子の事件のせいだということですが、必ずしも息子の考え方に納得していじめをひた隠したのではなく、息子にいじめがあることを知らせたくない、知ればまた息子が凶行に走るということが怖かったのでしょう。しかしそれも最後には崩れ、過ちは繰り返されます。このとき彼女の中で本当は何をすべきだったのか、何を求めていかなければならなかったのか、という葛藤がいっそう起こっていただろうと思うのですが、そこはもっと突っ込んで欲しかったですね。一つ挙げるとすれば、これから彼女は息子とどう向き合っていくのか、これは大きな問題です。いわば他人の子供たちを見てばかりで、自分の息子とはちゃんと向き合うことが出来ずにここまできたわけですから、今後どう向き合うのか?それに息子は理解や受容を見せてくれるのか?すぐに答えの出るものではないでしょうが、せめてどう向き合って行くつもりなのかを示して欲しかったです。西田朋美の居場所を教えるためだけに最後の登場をさせるのは少々意味が薄れているように思います。
 さらに雨木音也。彼はこのドラマでいったいどんな役割があったのでしょうか?2度のいじめに関連する傷害事件を起こし、いまなおいじめを無くすには暴力しかないと言い切る彼は、最後に学校に乗り込んで凶行に走ろうとします。一見インパクトはあったと思いますが、正直彼に対して印象があるのは強行に走ろうとする最中、教師たちをののしり彼なりに(方向性はともかく)世界を正そうとしていただろうこと、です。最終的には加地先生の渾身の反論にたじろんで教師たちに取り押さえられましたが、それで終わるというのでは結局彼の中にあった問題というのは何であったのでしょうか?すでに成人し更正しているはずの存在ということで触れられなかったのかもしれませんが、本来は彼もまた過去のいじめに関わる問題がきっかけで道を誤った子供です。今回のドラマで描きたかったのは14歳(前後)の子供たちが抱える問題に焦点を絞ったというのであれば仕方の無いことかもしれませんが、しかし現実には音也のような経験をし、彼のような思考に到達している存在もいるはずです、そこに我々はどう視点を向けていけばいいのか、そこにも何か1つ示してくれるところがあればよかったかな、と思います。余談ですが、西田朋美と音也が学校の教室で出会ったときに「いじめっ子は死刑になるべきだ」というような主旨のことを音也に言われ、朋美はそのとき本当は彼に自身を殺して欲しいと思ったのではないでしょうか?朋美が裁判所での証言の際にもなお自分が死ぬべきだったと言っていることからも、そう思わされました。
 あとは積木珠子。彼女には明日香を巡る裁判から、自分が今まで知らなかった(あるいは向き合う勇気が無かった)明日香のことを知り、明日香の死の真実を知り、一見目的を果たされたかのように見えますが、本当の珠子にとっての始まりはこれからだと思います。いくら真実が分かっても彼女が明日香に対してとってきた態度は消えることではありませんから、これは最後まで珠子は悔やむでしょうし、もっと明日香と向きあっていればこんなことにはならなかったのではないかと今後も自問することでしょう。珠子は事実を知りましたが、では彼女自身は何を得て何が変わったのでしょうか?おそらくその答えの一つは、証言以後心神喪失の状態にある西田朋美と向き合い、描かれてはいませんがこれからもずっと朋美の行く末を見守っていくだろう、という事でしょうね。今回の体験を得て、いわば明日香に対しては加害者の一人であったかもしれず、母親としては学校では明日香を救ってもらえなかったと考える被害者でもあり、そうした立場の自分とどう向き合っていくのか、非常に注目されるところではないかと思います。
 ドラマのラストでは朋美と珠子は、明日香からのメッセージに出会い、互いに救われる兆しが見られたのだろうと思いますが、これまで回を重ねてがんばって突っ込んだ描き方をされていただけに、最後はスタミナダウンかな?とも思われる弱めの描き方というか、やはりきれいにまとめた感があります。ただ個人的には上記のような不満もありつつ、かなり現在の社会の問題を突っ込んで取り上げていたのは非常に価値があると思いますし、状況は異なるとはいえ教育現場に関わる者の一人としては考えさせられる内容でした。フジテレビでは今後同じようにいじめを題材にした「ライフ」というドラマが始まりますが、製作者サイドとしてこの共通した問題をどのように扱っていき何を伝えようとしてくるのか、合わせて興味が持たれるところです。